撹拌装置を使用するうえで、最も重大なリスクのひとつが「回転部への巻き込まれ」です。
装置が運転中にもかかわらず、誤って開放部から手や衣類、工具などが入り込むことで重大な事故につながる恐れがあります。
本コラムでは、こうした巻き込まれ事故を未然に防ぐために当社がご提案している安全対策をご紹介します。
※撹拌装置といってもサイズはさまざまですが、当社で主に取り扱っているのは数十~数百リットルサイズの撹拌装置です。
本コラムでは、そのサイズにおける安全対策の実例をご紹介します。
ISO 12100で定められたリスク低減の3ステップとは?
撹拌装置の安全対策を検討するうえで参考になるのが、国際規格「ISO 12100」です。
この規格では、機械類全般を対象に使用中に発生しうる危険をあらかじめ想定し、設計段階でリスクを低減することが求められています。
また、リスク低減に取り組む際には、「本質的安全設計方策」→「安全防護および補助手段」→「使用上の情報提供」の順に対策を講じることが原則とされています。
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本質的安全設計方策
危険がそもそも発生しない構造にする設計(例:回転部が露出しない密閉構造)。 -
安全防護および補助手段
カバーやセンサなどの安全装置を追加することで危険への接触を防ぐ対策。 -
使用上の情報提供
ラベルやマニュアルによる注意喚起。設計や装置での対策が困難な場合の最終手段。
ここからはこの優先順位に沿って、撹拌装置への巻き込まれ対策をご紹介していきます。
撹拌機の巻き込まれ対策~本質的安全設計方策~
あらためて本質的安全設計方策とは、そもそも危険が発生しないように構造をつくる対策のことです。
実際のご提案例をご紹介します。
回転部が露出しないように撹拌機を密閉(ヘルール)接続にする

タンクの上部から設置する撹拌機は、上の画像のように大きく2通りの設置方法があります。
- 可搬型:撹拌タンクに万力のように設置して内部へ挿し込む設置方法
- 竪型:撹拌タンクにヘルールやフランジといった継手を使って設置する方法


可搬型の場合は、わずかな面積ではありますが回転部(シャフト)が一部露出します。(左画像 赤斜線部)
こういった回転部の露出を避けるため、配管部品を使って密閉接続する竪型の撹拌機にするのがおすすめです。
右画像のように撹拌機の軸をタンクの内部に隠して設置できます。
撹拌機の接続に使用する配管ですが、当社ではヘルール(フェルール)という種類をご提案することがほとんどです。
工具無しで組み付け・分解が可能な着脱が容易な継手であるため、洗浄の頻度が高い医薬・化粧品・食品関連の現場で使用されています。
ヘルール継手について詳しく知りたい方はこちらのコラムもご覧ください。
技術コラム:工具不要で洗いやすい!容器や配管に欠かせない「へルール継手」
蓋を開けずに原料を投入できるようにする
撹拌機を密閉接続にしても、何か原料を投入するために蓋を開ければ回転部が露出します。
このとき、作業者の腕や袖口・原料が入った袋の端部などが巻き込まれるリスクが生じます。

投入時は撹拌機の運転を停止するという運用も可能です。しかし、たとえば液体に粉体を溶かす工程の場合、液流が発生していない状態で材料を投入すると粉が液面に浮いて分散ができない・塊のままダマを形成してしまうなど、結果的に混合時間が長くなる可能性があります。

このようなケースでは、蓋に原料投入用のホッパーを設けることで安全な原料投入を実現します。
これは「蓋を開ける」という回転部を露出させる危険な行為自体を不要にするもので、リスクを根本的に排除するシンプルかつ効果的な対策です。
ホッパーのサイズや取り付け位置は、投入する原料や作業環境にあわせてカスタマイズ可能です。
撹拌タンクの蓋に原料投入用ホッパーを設置した事例
または、オペレータが介入せず材料を自動投入するという回避策もあります。


たとえば粉体と液体の均一混合に特化した粉体吸引式撹拌タンクでは、撹拌機とは別の位置に粉体原料の投入部が設けられています。
画像右側のホッパーに粉体を投入し、タンク内を真空状態にすることで、粉体がホッパーからタンク内へ自動的に吸引され、そのまま撹拌される仕組みです。
原料投入時の巻き込まれリスクを確実に回避できるだけでなく、作業者がタンク上部に直接手を伸ばす必要がなく、安全性と作業効率の両立が可能です。
またはタンクの上部に空気輸送機など粉体の搬送装置を設置し、投入を自動化することもできます。
撹拌機の巻き込まれ対策~安全防護および補助手段~
ここからは、構造そのものを工夫するだけでは対応しきれない場合に講じる、安全防護および補助手段についてご紹介します。
あらためて安全防護および補助手段とは、安全装置やガードを追加して保護する方法のことです。また、事故が発生した際に被害を最小限に抑える手段もここに該当します。
実際のご提案例をご紹介します。
インターロック機構を設ける


蓋や投入口が開くと撹拌機が自動停止する「インターロック機構」です。
たとえば、撹拌に異常が生じた際にとっさに内部を確認しようとして運転を停止し忘れてしまう場合や、撹拌完了後に中身を排出した状態で撹拌機が誤作動し、巻き込まれ事故につながるといったリスクを防止できます。
蓋と容器のそれぞれに近接センサを設置し、それらが離れると撹拌機の運転が自動的に停止する仕組みです。
回転部への巻き込み事故の多くは、イレギュラーな対応時に意図せず発生しています。こうした事態を未然に防ぐには、異常や誤操作が起きた場合でも安全側に動作するフェールセーフの考え方に基づいた対策が有効です。
管理番号:1W012525
蓋の開放部に格子網を設ける


撹拌タンクに設置する蓋は、原料の投入や内部の確認を行うために半分が開閉できる設計をご提案することが多くあります。
ただし、その開放部から運転中の撹拌機に接触するリスクがあるため、安全対策として格子網を設けるケースもあります。
格子網は、作業者が誤って手や工具を差し込むことを防ぐだけでなく、ペンや部品などの小物が撹拌槽内に落下するのを防止する効果もあります。
格子の形状や目の細かさは、使用目的や作業内容に応じて柔軟にカスタマイズ可能です。
格子網付きの開閉蓋について気になる方はこちらのページをご覧ください。異物混入対策・安全対策用開閉蓋
管理番号:UAA00269
撹拌機の軸部分にカバーを設ける

撹拌機に取り付ける軸カバー

蓋に取り付ける軸カバー
何らかの理由で竪型の撹拌機が採用できない場合には、可搬型を使用しながら、露出する回転部にカバーを設けることで安全性を高める方法もご提案可能です。
カバーは撹拌機本体側に取り付けるタイプ・蓋側に設置するタイプなど、作業内容や装置の構造に応じて柔軟に対応できます。
管理番号:1Z002871-1, 1Y009221-1
緊急停止ボタンを設ける

緊急時には、誰でもすぐに停止できる仕組みが求められます。
緊急停止ボタンを設けておくことで、装置の使用に慣れていない方でも、ひと目で場所がわかり、安全に対応することが可能です。
管理番号:1AA00017
番外編 撹拌の火傷対策
撹拌機の安全対策というと、まず思い浮かぶのは回転部への巻き込まれ対策ですが、
撹拌工程では内容物を加温するケースも多く、火傷への対策も同様に重要です。
なかには「表面温度が60度を超える設備にはカバーを設ける」といった、社内で明確な安全基準を設けている企業もあります。
ここからは、そうした火傷リスクに対応するための安全対策事例をご紹介します。
高温になる撹拌タンクに断熱性の高いカバーを付ける
撹拌工程では、内容物を加温する場面も多く見られます。
そのため、加温用の撹拌タンクには断熱層を設けることで、作業者の火傷リスクを軽減することが重要です。

写真は、タンク外周に取り付けた布製の断熱カバーです。
カバーはマジックテープで固定します。着脱が簡単なため、加温工程のある現場で手軽に使用できます。
製品の詳細はこちらをご覧ください:断熱カバー
断熱カバー動画
なお、タンク全体に洗浄水がかかるような環境では、衛生面を考慮して布製ではなく、タンク自体にグラスウール断熱槽を内蔵した仕様を採用するのが一般的です。
詳しくは断熱槽付きステンレスタンクのページをご覧ください。
長時間運転により高温になったモーター部による火傷を防止する

撹拌機を長時間運転すると、モーター部の表面温度が60~70℃近くに達する場合があります。
その対策として、モーター部にパンチング穴付きのステンレスカバーを取り付け、放熱しながら作業者が高温部に直接触れないようにする構造を採用した事例があります。
管理番号:1AB01822-1
まとめ・カスタマイズのご相談について
本コラムでは、撹拌機における巻き込まれや火傷のリスクを防止するための安全対策を、ISO 12100の考え方に基づいてご紹介してきました。
事故を防ぐためには、単なる注意喚起だけでなく、装置そのものの構造や使い方を見直すことが重要です。
当社では、「本質的に危険を起こさない設計」から「安全装置の追加」「作業負担を軽減する工夫」まで、現場の状況やお困りごとに応じたカスタマイズ提案を行っております。
たとえば以下のようなご相談に対応しています:
- 撹拌機の回転部を覆う方法を探している
- 蓋や投入方法を工夫して巻き込まれリスクをなくしたい
- 断熱対策など安全基準に合わせた仕様変更をしたい
- 作業性を保ちつつ安全性を高めたい
これまでの実績に基づき、1品からでも対応可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。
お客様の「安全で使いやすい装置づくり」を全力でサポートいたします。