お客様から「ステンレス製なのにすぐに錆びてしまった」とお問い合わせをいただくことがあります。
ステンレス鋼(Stainless steel)は、「Stain(錆び、腐食)」「less(より少ない)」「steel(鋼)」という英語の通り、 非常に錆びにくい鉄の合金 です。
鉄と比べればかなり錆びにくいのですが、 まったく錆びないというわけではありません。
- ステンレスは「錆びない」ではなく「錆びにくい」
- ステンレス容器が置かれている状況や内容物、箇所によって特に錆びやすくなる場合もある
- 錆びを防止するには錆びやすいところをなくす加工を行ったり、内容物に合った材質の容器を使うのもひとつの手
そもそも、なぜステンレスは錆びにくいの?
空気に触れると、自己修復も可能なバリアを形成!
ステンレスは、錆びの原因となる鉄よりも先にクロムが空気中の酸素と結合(=酸化)し、数nmの非常に薄い不動態皮膜(保護皮膜)を形成して、全体を包み込みます。不動態被膜は化学変化しにくく非常に強固なので、鉄が酸素と結合しようとする(=錆びる)のを防いでくれます。不動態被膜は傷が付くなどして破れることがありますが、瞬時に自己修復できるため鉄が錆びる隙を与えません。
弊社標準材質のSUS304の場合は、クロム18%+ニッケル8%+鉄でできています。(「18-8ステンレス」とも呼ばれていますが、18と8はこの成分のことを指しています。)ニッケルは不動態被膜をより形成しやすくする働きをします。
SUS304以外の材質もあります
SUS304よりも不動態被膜が厚く、耐食性に優れたSUS316Lもあります。詳しくは「錆びに強いステンレスのハイグレード素材SUS316Lをご存知ですか?」をご覧ください。
「錆びにくいはずなのに、錆びてしまった」その原因とは?
もらい錆び
ステンレス容器の表面に鉄などの金属が付着したまま放置してしまうと、その金属が錆びることでステンレス容器自体も錆びてしまう現象です。もらい錆びはステンレス鋼同士だけで起こるのではなく、ステンレス鋼以外の金属に接触していても起こります。
汚れや水分が付着している
ステンレス鋼の表面に汚れや水分が残っていると、その部分に不動態皮膜を形成することができないため、錆びやすい状態となってしまいます。
塩分が付着している
ステンレス鋼は、ほかの金属に比べ塩分に対する耐食性は優れていますが、表面に付着したまま放置すると錆びてしまいます。材質にもよりますが、一般的にステンレス容器は塩分の含まれる内容物の保存には向いていません。
酸、アルカリなどの薬品を入れている
酸やアルカリの種類によっては、ステンレスとの相性が悪く、錆びが発生します。また、薬品の濃度や温度によっても影響が変わってきます。
ステンレス容器はどこが錆びやすい?
水や汚れが溜まりやすいところ
容器の角、取っ手の裏、縁巻き部など、洗いにくく汚れの溜まるところや、水分の溜まりやすいところが錆びやすくなります。
傷が付いているところ
傷に入り込んだ汚れや水分で錆びが発生する場合があります。金属製のもので傷付けた場合、もらい錆びの原因になります。
台や床と接しているところ
底面は、台や床などに接触するので傷が付きやすいところです。置いた場所が汚れていると汚れが付着してしまいますし、水に濡れた状態で金属の上に放置すると、もらい錆びの原因になります。
加工されているところ
曲げ、溶接など加工されている箇所は、水分や汚れが溜まりやすかったり、表面の組成が変化して錆びやすくなっている場合があります。
ステンレス容器の錆び対策
汚れや塩分、水分が残らないようにする
洗浄にて汚れや塩分を落とし、洗浄後は水気のある場所に放置せず、乾いたウエスで拭き上げてよく乾燥させます。
傷やもらい錆びに注意する
汚れや水が溜まるような深い傷を付けないように取り扱うことと、洗浄時は金属製や硬いたわしを使わず、柔らかいスポンジやウエスを使うことをおすすめしています。また、他の金属など錆びやすいものと長時間接することを避け、もらい錆びを防ぎます。
ステンレス容器を長持ちさせるカギは「洗い方」
汚れや塩分、水分を残さず、かつ傷をつけないように洗浄する方法は「ステンレス容器を長持ちさせる洗浄方法とは?」をご覧ください。
錆びやすいところを無くす
サニタリー容器
縁巻き部や取っ手の隙間を溶接などで無くし、汚れや水が溜まらないようになっている容器です。錆び対策としてだけでなく、洗浄時間も削減できます。
袴(はかま)
板を巻いた、スカートのようなものです。容器下部に取り付け、底が床などに触れないようにかさ上げします。袴の付いていない容器にはオプション加工にて取り付けいたします。
電解研磨
表面を溶かして平滑化させる表面処理方法です。汚れなどの不動態被膜の形成に影響のあるものが取り除かれ、より強固な不動態被膜が形成されます。表面が滑らかになるので汚れが付きにくく、付いても落としやすくなります。
フッ素樹脂コーティング
PFAやPTFEなどのフッ素樹脂は、ほとんどの薬品に侵されません。接液部にコーティングすると、ステンレスの表面に薬品が触れないため、錆びを防ぐことができます。ただし内容物や目的に応じてフッ素樹脂の種類や膜厚を選定したり、ピンホールレスにする必要があります。
内容物に合った容器を使う
SUS316L製容器を使う
使用環境や内容物の種類によっては、容器の材質を変えることで錆びにくくなる場合があります。SUS316LはSUS304よりも耐食性、耐孔食性、耐粒界腐食性に優れており、SUS304と比較すると海水などにも強くなっています。
> 技術コラム「錆びに強いステンレスのハイグレード素材「SUS316L」をご存知ですか?」
インコネル(ハステロイ)製容器を使う
ステンレスと相性の悪い薬品を取り扱う場合、弊社ではインコネルで容器を製作することができます。インコネルとは、ニッケルを主とした合金です。材質によってはクロムやモリブデン等が含まれており、硫酸や塩酸などの酸化性雰囲気において、ステンレスに比べて優れた耐食性を持っています。詳細についてはお問い合わせください。
> 技術コラム「最近やってます!インコネルタンク特注製作事例」