前回は「フッ素樹脂コーティングのはなし~7つの特長編~」と題して、フッ素樹脂コーティングの基本情報や、特長をご紹介いたしました。
劣化に強く、たいていの環境に耐えてしまうフッ素樹脂は、万能素材のように見えますが、フッ素樹脂コーティングされた容器にもしっかりと寿命があります。
今回は、フッ素樹脂コーティングの持つリスクや注意点についてご説明いたします。
- フッ素樹脂の弱点「ピンホール」ってなに?
- 基材を守るための「ピンホールレス」とは
- フッ素樹脂コーティングの容器を扱ううえで注意すべきこととは
フッ素樹脂の弱点「ピンホール」
フッ素樹脂コーティング容器が使えなくなる一番の原因は、基材の腐食です。(基材=コーティングで守りたい、土台となる材料)
しかし、あれだけ劣化に強いフッ素樹脂でコーティング加工しているのに、なぜ基材が腐食してしまうのでしょうか。
その理由はフッ素樹脂で作った膜にありました。
見えない穴が無数に空いているフッ素樹脂コーティング膜
実はコーティング加工で作られたフッ素樹脂の膜にはピンホールと呼ばれる無数の小さな貫通穴が存在します。
薬品をフッ素樹脂加工された容器に入れると、だんだんこのピンホールから染み込み始め、やがては基材まで到達してしまいます。
コーティングの膜が薄いと液体がピンホールを通って基材まで染み込んでしまう
基材が錆びると、そこからコーティング膜が剥がれてしまう
この染み込んだ薬液により基材が腐食し錆びが発生すると、錆びた部分からフッ素樹脂コーティングがはがれてしまうのです。
いくらフッ素樹脂の膜は劣化せずとも、コーティングが剥がれてしまえば、薬液が流れ込み基材の腐食が進んでしまい、使い物になりません。
ピンホールという性質から、コーティング容器は基材の腐食と共に寿命を迎えるのです。
基材を守れ!「ピンホールレス」
この染み込みの対策として、耐食性を持たせるコーティングでは、皮膜を厚くしてピンホールレスという状態にするのが一般的です。
コーティング膜を何層も厚く重ねて、それぞれの層がピンホールを覆うことで、薬液が基材まで染み込まない状態(=ピンホールレス)を作り出します。
コーティングの膜の目安として、粘着物のくっつきを防ぎたい時や、表面のすべりを良くしたい場合には30μmほどの薄い膜でコーティングするのですが、耐食性を持たせたい場合には300μm~400μmという厚めな膜を設定します。
ただし、ピンホールを恐れて膜厚を大きく設定しすぎると、かえって皮膜剥離が起こりやすくなってしまいます。
フッ素樹脂コーティングの寿命を延ばすには、適度な厚さの皮膜でコーティングすることが重要です。
その他の注意点
?加工処理の熱で母材が変色します。
コーティング加工の工程中、フッ素樹脂塗料の焼き付けで約400℃程度の加熱を行います。
ステンレスは加熱温度が300℃を超えると薄い黄土色に変色します。
加熱すると毒ガスが発生します。
火災や溶接作業で400℃以上の高温状態になると、フッ素樹脂は毒性のガスを発生します。
誤って吸引すると呼吸障害を起こしたり、環境に悪影響を及ぼします。
火気の取り扱いに注意し、やむを得ない場合は十分な換気とマスクの装着をして作業を行う必要があります。
静電気を発生します。
粉体などの内容物との摩擦で静電気を発生します。
可燃性の高い環境で使用する場合は、静電気の放電による火花が災害を起こす可能性があります。
対策として、容器にアースを付ける、導電性のフッ素樹脂コーティングを施すという方法があります。
廃棄する際には気を付けましょう
上記にあるように、フッ素樹脂を加熱すると毒ガスが発生するので、廃棄の場合には焼却は避け、安全型処分場にて処分する必要があります。
ただし、燃焼時に発生した熱分解生成物を処理できる装置が設置してある場合 には、フッ素樹脂の焼却処理は可能です。
焼却できない場合は産業廃棄物として廃棄してください。
あらためてフッ素樹脂の特長を知りたい方へ
本記事の前編である「みんな気になる、フッ素樹脂コーティングのはなし ~7つの特長~」では、フッ素樹脂の7つの特長をご紹介しています。まだご覧になっていない方はこちらもあわせてご覧ください。
扱い方を学べば、便利な素材「フッ素樹脂」
今回はフッ素樹脂コーティングのリスクについてご紹介いたしました。
リスクをしっかり把握して適切なコーティングを行えば、様々な場面でフッ素樹脂は活躍します。
フッ素樹脂コーティングを施した製作事例
オーダーメイドで1品からフッ素樹脂コーティング付きのステンレス容器を製作いたします。